ヒアリングは、コンサルタントが必要な情報を収集するために用いる代表的な手法であり、相手との対話を通じて必要な情報を聞き出す行為です。
コンサルタントがヒアリングで用いる「聞く」には、“傾聴する(聴く)”という意味と“質問する(訊く)”という意味の、2つの「聞く」があります。
この2つの「聞く」は、それぞれ意味は異なりますが、ヒアリングを成功させるためにはどちらも欠かすことができない不可分な関係にあります。それぞれの意義と両者の関係を十分に理解したうえで、実際に現場で使いこなすことができれば、適切なタイミングで効果的な質問を繰り出し、限られた時間の中であっても必要な情報が効率的に収集できるようになります。
本記事では、ヒアリングで失敗しないためにコンサルタントが習得すべき2種類の「聞く」の意義と関係について説明します。
筆者がコンサルティング業界に飛び込んだのは2000年11月、当時まったく未経験の素人でした。そんな私がいまも現場の第一線で活躍し続けることができているのは、ビジネスソフトスキルのおかげだと信じています。
本ブログでは、筆者が長年のコンサルティング実務を通じて身に付けた、変化の時代を生き残るための実践的ノウハウを、体系化して解説します。
なぜヒアリングスキルが上達しないのか
経営者層や現場部門へのヒアリングは、普段お会いできない方々と接することができる貴重な機会であると同時に、コンサルタントの腕の見せどころでもあります。
しかしながら、
- 事前に質問すべき事項を洗い出してのぞんだはずなのに、あとで内容をまとめてみると矛盾や疑問だらけで、このままでは結論付けることができない。
- 議事録を読んだ上司からの質問に対し、明確に回答できない。
- ヒアリングのあとにクライアントから「あそこはもっと突っ込んだ質問をしていただきたかった」とクレームを受けてしまった。
といったような、想定通りに情報を引き出すことができず、悔しい思いをした方も多いのではないでしょうか。
情報が足りていないことに気が付いたのであればまだよいですが、最悪なのは肝心なことを聞けていないにもかかわらず、聞いた気になって安易に結論づけをしてしまうケースです。現実的でない絵空事や見当違いな解決策を示し、クライアントの信頼を大きく損なうような事態は絶対に避けなければなりません。
必要な情報を聞き出すことができる“よいヒアリング”では、仮に初対面の関係であっても、コンサルタントとヒアリング相手との間に一種の“信頼関係”が存在しています。「この人は私の仕事内容をよく理解しようとしてくれている」、「この人に相談すればなにかよい変化が起きるかもしれない」という心証は、質問の趣旨をよく理解しよう、どうすれば問題解決につながるかを一緒に考えよう、積極的に発言しよう、という相手の意識と行動の変化につながります。
ヒアリングが上達しないと悩んでいる方の多くは、この信頼関係を築くことができていません。
“よいヒアリング”には、相手との信頼関係を築くために具備しなければならない構成要素があります。
しかし、質問の仕方などの技術にばかり目がいきがちで、「ヒアリングとはなにか」、「ヒアリングに必要な要素はなにか」といった、ヒアリングを成功させるための筋道についてはあまり考えようとしません。
スポーツを例に考えると、技術だけでなく体の仕組みや力の伝わり方といった理屈についても理解することで、技術をさらに使いこなせるようになり、上達のスピードも加速します。
ヒアリングも同じです。技術も重要ですが、その前に“よいヒアリング”の構造について考え、理屈を理解することが、ヒアリングの相手との間に信頼関係を構築し、より建設的で本質的な議論ができるようになるための第一歩です。
コンサルタントに必要な2つの「聞く」
コンサルタントがヒアリングで用いる「聞く」には、主に以下の2つがあります。
- 相手の話に注意して耳を傾けて内容を理解する
- 相手に尋ねることによって答えや情報を求める
①は傾聴する、②は質問する、と言い換えることができます。
「傾聴する」ことにより、「相手が置かれている現在の状況(事実)」、「問題についての相手の考え(主張)」について理解することができます。熱心に耳を傾けて、理解が進めば進むほど、把握した内容の矛盾への気付きや、なぜだろうという疑問が自然と湧いてきます。そのような疑問、矛盾を「質問する」ことにより解消させ、さらに理解を深めます。ヒアリングでは、この「傾聴」と「質問」を繰り返しおこなうことで、視点をより深い本質部分へと近づけていきます。
このように、「傾聴」と「質問」は不可分の関係にあります。的確な質問をしたいのであれば、なによりも相手の話に注意して耳を傾けて内容をよく理解することです。
ヒアリングに同席していると、ときどき「今の相手の説明は先ほどの話と矛盾しているけれど確認しなくていいの?」、「そこ、もっと深く聞くところでしょう!」とつい突っ込みたくなることがあります。相手の話に疑問を感じず、「はい、そうですか」とあっさり通り過ぎてしまうのですが、これは必ずしも経験の差ではなく、傾聴することに対する意識の違いが大きいと思います。意識すれば、必ずもっと深い考察ができるようになります。
事前に質問項目を検討することも大切ですが、「事実は小説より奇なり」です。極端な言い方をすると、調査対象に関する情報が乏しい中で考えた質問項目は、ほとんど役に立ちません。準備していた質問項目にこだわらず、当日に相手の言葉をよく聞いて、事象の背景やストーリーを理解しながら、適切なタイミングで適切な質問を選択できる柔軟性を持ちましょう。
まとめ
クライアントの問題に適切な解決策を提案できるかどうかは、ヒアリングによって必要な情報を漏れなく収集できるかどうかにかかっています。
必要な情報が聞き出せる“よいヒアリング”では、コンサルタントとヒアリング相手との間に“信頼関係”が存在しています。この信頼関係を築くために、技術に加えて、ヒアリングの構造について考え、理屈も理解しましょう。
本記事では、コンサルタントにとって重要な、“傾聴する(聴く)”という意味と“質問する(訊く)”という意味の、2つの「聞く」の意義と関係について説明しました。
“よいヒアリング”には、さらに「目的」と「姿勢」という構成要素が必要です。こちらについても他の記事で説明していきますので、ヒアリングの構造について理解を深めたい方はそちらも一読してください。