議事録の作成は、新人コンサルタントであれば誰しもが必ず最初に通る道ではないでしょうか。
プロジェクトの始まりから参画しているのであればまだしも、時にはプロジェクトの途中から参画し、いきなり担当をまかされるケースも少なくありません。
それまでにどのような議論がなされてきたのかも十分に理解できておらず、言葉の意味や話の内容もよくわからない中、必死に聞いて作成してはみたものの、上司からたっぷりと修正指摘を受けてまた書き直し。やっと完成したと思ったら、また次の会議がやってくる。
議事録の作成は確かに手間のかかる作業です。大切なことを聞き逃さないように会議中も気を抜けませんし、他にお願いされている仕事があっても会議が終わったらすぐにまとめ作業にとりかからないといけません。誰か代わってくれないだろうか、と思うこともあるでしょう。
そんな議事録作成ですが、取り組み方次第では、自身を誰よりもプロジェクトの状況を深く理解している代えがたい存在へと変えることもできますし、コンサルタントとしてのビジネスソフトスキルを鍛えるための恰好の訓練の場にもなります。
「議事録を制する者はプロジェクトを制す ~前編~」では、議事録を作成するためにはコンサルタントとしてのハイレベルなビジネスソフトスキルを必要とすること、コンサルタントが実務で利用する要約型議事録の作成の秘訣について説明しました。
後編では、そのような議事録作成に新人コンサルタントがどのように立ち向かっていけばよいか、具体的な作成の方法について説明します。
新人コンサルタントの取り組み方
ハイレベルなビジネスソフトスキルが要求される議事録作成ですが、まだ十分にスキルを習得していない新人コンサルタントがこの作業に取り組むにはどうしたらよいのでしょうか。
議事録の作成を自身の成長の機会と捉え、積極的にチャレンジしようとするのであれば、以下のステップで取り組みましょう。
①書き留める
何が大事な情報かが分からない状態ですので、会議の最初から最後まで、すべての言葉を聞き漏らさない覚悟を持って、“傾聴”する姿勢が必要です。そして、耳に入ってきた言葉、会話を、意味が分からなくとも漏らすことなくひたすら書き留めていきます(あくびなどしている余裕はありません)。
記録方法としてPCに入力する方法と、ノートに手書きをする方法のどちらがよいかという質問をよく受けます。PCに入力する方法はスタイリッシュに見えますが、経験の浅い新人コンサルタントの方には手書きによる記録をお勧めします。手書きの場合には以下のようなメリットがあります。
- 書き留めたときには意味不明であった発言等を、そのあとの議論を聞いて理解できたときに、記録作業をしながらすぐにさかのぼって修正、追記することができる。
- 互いに関係性のある単語、発言などをすぐにマーキングしたり、線で結んだりすることにより、会話を書き留めながら並行して内容の整理を進めることができる。
- たびたび登場するキーワードと思われる単語、決定した事項、宿題となった事項など、マーキングや色付けなどをしておくことで、議事録を書き起こす際に重要な事項を漏らさず拾うことができる。
議論に置いていかれないよう急いで記録をしているうえ、文字上にマーキングをしたり線を引いたりすると、会議が終了したときにはノートが非常に汚く見えるかもしれませんが、書き留めた本人の理解を助け、後工程の作業に役立つのであれば、見てくれは関係ありません。
②“あらすじ”を見つける
書き留めたメモをながめて会議を振り返り、議論のあらすじを組み立てます。「組み立てる」と表現したのは、実際の会議では同じ議論がタイミングを変えて何度も繰り返されたり、表現を変えて再び登場したりします。余談も混ざるかもしれません。このため、議事録の作成担当者が散らばったパズルのピースを集めてつなぎ合わせ、ストーリー化する作業が必要になるからです。
ここで手掛かりになるのは、まず①「書き留める」で会議中にノート上に付したマーキング、色付け、線などの情報です。
これらの情報が付された言葉、発言内容に注目し、抜き出します。そして、抜き出した言葉、発言内容を中心にして、その周辺に記録されている情報がどのような関係、つながりで語られていたかを考えながら情報をつなぎ合わせていきます。
会議には台本がある訳ではありませんので、参加者が言いたいことは、会話の中でいろいろなタイミング、いろいろな表現で語られるため、記録を最初から順にながめていくよりも、記録の中にある重要なキーワード、発言に注目し、それを起点にして振り返る方が、内容を整理するうえでは効率的です。
もう一つの手掛かりは会議の「目的」です。
たとえば、ある問題に対する解決策を決定することが会議の目的であれば、議論の内容は大きく「理由」と「決定事項」に、課題を整理することが目的であれば「実際に起きている事象」と「解決すべきこと」といったように、会議における議論はおおよそ「根拠」と「結論」という2つの要素で構成されます。 会議の目的を理解し、そこから「根拠」と「結論」のそれぞれに相当するカテゴリーに発言内容を分類し整理すると、複雑に見えた内容も実はシンプルなものであったことに気が付くことができます。
③情報を選別する
あらすじが見えたら、書き留めた情報全体を再度ながめ、議事録として残すべき情報と不要な情報とを選別します。
②「“あらすじ”を見つける」の作業段階で、あらすじに関係するかどうかが判別できない意味不明な情報も出ます。これらは、あらすじをよく検討したうえではみ出した情報ですので、議事録として残すべき重要な情報ではない可能性は高く、思い切って“捨てる”勇気を持つことも必要です(その情報の重要性が高ければ、後で議事録を回覧した際に発言者または他の出席者から指摘を受けるはずですので、そのときに修正します)。
どうしても気にかかる場合は、議事録を書き起こす前に、会議に出席した他のメンバーまたは上司に内容を確認しましょう。
一方、あらすじに関係する情報の中にも、議事録として残すべき情報と不要な情報があります。残すことによりあらすじが補強され、議事録の利用者が内容を理解しやすくなると考えられる情報(例えば、経営者などの重要なキーパーソンの発言や、問題の具体例などが該当する可能性がありますが、会議によってさまざまです)を選別し、残さなくとも会議の内容が議事録の利用者に伝わると考えられる重要性が低い情報や、重複、余談であると判断できる情報は除外します。
常に、「最小限」の情報で、会議の内容を伝えることを心がけましょう。
④書く
情報の選別が終わったら、いよいよ議事録を書き起こします。
③「情報を選別する」で識別した議事録に残すべき情報を、以下の3つに分類して記述します。
- 決定事項(結論が出なかった場合は、未決事項)
- To-Do事項(宿題)
- 結論に至った経緯
「結論に至った経緯」は、簡潔にわかりやすく表現することを意識しましょう。作成者が会議内容を理解できていたとしても、議事録の利用者にそれが十分に伝わらなければ意味がありません。利用者の中には、その会議に参加できなかった者もいるかもしれません。そのような利用者にも誤解を与えず、正しく結論を伝えられるように工夫しなければなりません。
ここでは、②「“あらすじ”を見つける」で議論を組み立てた(ストーリー化した)結果をもとに、構成を決定します。会議で複数のテーマについて議論されたケースでは、テーマごとに、章立て、項番、または見出しを付けることは、わかりやすさを高めるための技術の一つです。場合によっては、実際に議論されたテーマの順番を入れ替えて記述する、別の切り口で章立てし整理しなおすという工夫も有用です。
構成が決まったら、議論の経緯や、結論に関係する重要な発言内容を記述します。
会議の中で出席者の会話を抜き出してそのまま記載しても、前後関係が分からないと意味が通らないことがよくあります。また、発言の裏に隠れた(発言の際には省略された)背景などの情報も、議事録の利用者に理解してもらうためには必要になることもあります。
このため、事実や発言者の意図がより正しく伝わるのであれば、実際に会議で発言された言葉や言い回しを別の表現に言い換える、補足情報を付け足す、実際には長かった発言を箇条書きにして見せるなど、議事録の利用者に大事なことがより正しく伝わるように表現方法を工夫します。
いろいろなプロジェクトの議事録を読むと、わかりやすさを高めようと、重要な言葉の文字色を変える、下線を引くなどの工夫をしているプロジェクトもあります。このような工夫も情報を目立たせる効果はありますが、多用しすぎると重要な情報とそうでない情報との差がわかりづらくなり、逆に議事録を読みづらくしてしまうため注意が必要です。
⑤レビュー&フィードバック
議事録を書き起こしたら、上司のレビューを受け、関係者に回覧します。ここで内容に関し多くの指摘を受けて修正作業を加えたのち、承認されて、議事録が完成します。
大切なことは、ここで安心して作業を終了するのではなく、最初に作成したドラフトと修正後の議事録とを比較し見返してみることです。 この作業を通じて、自身の思い違いに気が付いたり、分からなかった言葉の意味が明確になったり、不適切な表現、言い回しを理解したり、多くの新たな発見や気付きを得ることができます。ここで得た知識、経験を、次の議事録作成に活かす。このような議事録作成におけるPDCAサイクルを回すことが、コンサルタントの3つのコアスキル習得のための近道です。
まとめ
コンサルタントの生活は、一日として同じことが繰り返される日はなく、日々新たな作業、状況に直面します。このような変化に対応し続けるために、「聞く力」、「考える力」、「伝える力」の3つのコアスキルは不可欠です。
議事録の作成は、確かに手間のかかる作業です。しかし、この作業を通じて「聞く力」、「考える力」、「伝える力」を鍛えることができます。全力で取り組めば、必ずビジネスソフトスキルが向上します。
コンサルタントとして働いていくのであれば、敬遠せず、むしろ自分から手を挙げて積極的に取り組みましょう。