物事を深く考える習慣を身に付けたいのであれば、まず頭の中で考えていることを文章に起こしてみることです。次に、文章の中で使用しているひとつひとつの単語の意味について、何度も自問自答することです。
単語の意味の定義をおろそかにして結論を急ぐと、上辺だけの浅い思考で留まってしまい、主張に論理的な矛盾や見落としが生じるおそれがあります。
また、意味の定義があいまいな単語を使用した資料や説明は、読み手や聞き手には内容を理解しづらくなるだけでなく、人によって認識違いを生じさせ混乱を招く原因にもなります。
単語の意味が考え抜かれた資料や説明は非常に簡潔でわかりやすく、美しいです。
考え抜くことにより、物事に対する自身の理解が深まり、余計な情報が削ぎ落されて、限りなく本質に迫ることができます。そうして書かれた文章や説明は、格段に相手に伝わりやすくなります。
本記事では、単語の意味の定義に着目した、物事を深く考えるための思考方法について解説します。
考えているようで考えていない
「言いたいことを自分で文章に起こし、書いたあとに何度もレビューしているのだから、よく考えているに決まっている」と言われるかもしれませんが、会議の途中で出席者から「資料のこの言葉はどういう意味ですか?」と問われるケースが実はよくあります。
簡潔に回答ができれば良いですが、考えが足りていなかったことに気付いたものの素直に「未検討でした」とは言えず、しどろもどろの言い訳や非論理的な説明をして余計に相手を混乱させるようなことになっては最悪です。
そのような失敗をする原因は、単語の意味の定義を深く考えずに使用していることにあります。
単語とは、文章や会話を構成する要素の、独立性のある最小単位です。たとえば「多くの時間がかかる」という文章は、「多く」、「の」、「時間」、「が」、「かかる」の3つの単語から成り立っています。
- 「多く」は、実際にどれくらいのボリュームなのでしょうか。なにかと比較して多いのか、絶対的に多いのか、なぜそのボリュームが「多い」と言えるのでしょうか。
- 「時間」は、作業の総時間でしょうか。作業開始から完了までの「期間」の長さでしょうか。
- 助詞の「が」の使い方は適切でしょうか。たとえば、作業の難易度が高く、そのうえ時間「も」かかるという状況ではないでしょうか。
筆者は20年以上コンサルティングの仕事に携わっていますが、資料やプレゼンテーションの中でひとつひとつの単語を考え抜いて使われているなと感心させられた方はごく僅かです。

かく言う筆者自身も、資料や原稿をセルフチェックする際には、単語の意味や使い方の適切さを自問自答することに多くの時間を費やしていますが、やはり不安は残ります。
それでも自問自答を繰り返すことにより、どのような質問を受けても回答できる自信が生まれますし、仮に考えが足りていなかったと気付いても「確かにそうですね。そこまでは考えていませんでした。」と素直に自分の検討不足を認め、その質問をきっかけに質問者とより深い議論をおこなうこともできるようになります。
家族や友人との会話であれば、多少あいまいな表現であっても会話自体は成立しますし、相手の意図も理解することができます。多少の認識違いがあっても、笑って済ますこともできます。しかし、仕事ではそうはいきません。
コンサルタントに期待されていることは、クライアントの置かれている現状(事実)を正しく理解して問題を設定し、その問題を引き起こしている真の原因を特定し適切な解決策を導き出したうえで、その内容をクライアントにわかりやすく報告・説明することです。
クライアントとの意思疎通のための用具である言葉、つまり単語にこだわることは、コンサルタントとしての仕事に対する当然の姿勢であるといえます。
考えるプロセス
物事を深く考える習慣を身に付けるためには、以下の3つのステップを踏む訓練をしましょう。
ステップ1 文章に起こす
まずは頭の中で考えていることを文章に起こし、目に見えるようにしましょう。
頭の中でイメージして考えるよりも、文字にすることで思考する対象が明確になり、どこから深堀りすべきか順番付けができるようになるため、検討がしやすくなります。
このときの文章は、表現が多少粗くても、あいまいでも構いません。まずは文字にすることが目的です。


ステップ2 単語に分解する
次に、文字に起こした文章を単語に分解し、名詞であればそれが具体的になにを指しているのか、接続詞や助詞であれば使い方は適切か、形容詞であればそのように形容する根拠はなにかなど、ひとつひとつの意味を自問自答します。
そして、より適切な表現があれば文章を修正し、説明が不足していれば追記をします。最初に書いた文章よりも長文になったり、冗長な表現になったりしても構いません。自分の言いたいことを文字にして可視化することで、理解があいまいな事項、検討が不十分な事項を見つけ出し、内容を明確にすることが肝心です。


ステップ3 削ぎ落す
文章が具体化され、自分の考えが明確になったら、文章を再度見直して余計な表現を削ぎ落し、体裁を整えましょう。
スキルアップのための着眼点
単語の意味を自問自答する作業を習慣化するために、はじめのうちは以下の単語に着目してみると、とりくみやすいでしょう。
この思考方法が習慣化できると、文章量が多い資料をレビューする際にも、注意すべき単語が自然に目に留まるようになるので、レビュースキルも向上します。
- 一般的な専門用語
「実績」、「計画」、「経営管理」、「管理会計」など、一般的に使用される専門用語は、シチュエーションによってその意味する内容はさまざまです。にもかかわらず、このような単語はそのまま使用しても会話が成立するため、その内容について深く考えていなくとも、また参加者間で具体的な認識合わせをおこなわなくとも(認識がずれたままでも)議論が進んでしまうことがよくあります。その結果、あとになってから各人の理解がずれていることが明らかになり、作業に多大な手戻りが生じるおそれがあるため、十分に注意する必要があります。
一般的な専門用語こそ、より具体的に表現すべきではないか、そのまま使用しても問題はないか、よく吟味しましょう。 - 類似している単語
たとえば、新しい報告資料のフォーマットを開発する際に、その利用者として「経営層」、「経営者」、「マネジメント層」、「管理者」、「役員クラス」など、文章や資料内のあちこちで似たような複数の単語を用いて表現してしまうことがあります。これは、利用者の定義があいまいな場合によく起きるケースです。利用者があいまいなまま作成されたフォーマットは、誰のニーズも満たすことはできず、結局使われなくなってしまうでしょう。
同じ意味であるにもかかわらず、異なる単語を使用している場合は、具体的な対象がなにかをよく考え、適切な単語に統一しましょう。
まとめ
物事を深く考える習慣を身に付けたいのであれば、まず頭の中で考えていることを文章に起こし、文章の中で使用しているひとつひとつの単語の意味について、何度も自問自答しましょう。一般的な単語ほど、深く考えることなく無意識のうちに使用してしまいがちなため、そのような単語を見つけたら自然と頭の中でアラートが発せられるような慎重さを持つことが重要です。



コンサルタントが作成する提案書は、一般的には以下のような構成で書かれます。
①クライアントの課題とニーズ
②プロジェクトの目的
③プロジェクトの進め方と成果物
④スケジュールと体制
⑤見積り報酬額
筆者は、提案書の提出期限がどんなに短期間であっても、この中の①を書き上げる作業に相当の時間を使います。時によってはページ1枚を作成するのに、丸一日以上かけることもあります。
その代わり、①が自分の中で整理しきれると、②以降の作成作業はすんなりと進めることができるようになります。
単語にこだわり、意味を考え抜く作業の過程で、自然とプロジェクトの目的や進め方のポイントなどが並行して頭の中で整理されるからです。
単語の意味にこだわらない資料や説明は説得力もなく、相手にも共感してもらえません。自分が使用する単語には、とことんこだわりましょう。



