議事録の作成は、新人コンサルタントであれば誰しもが必ず最初に通る道ではないでしょうか。
プロジェクトの始まりから参画しているのであればまだしも、時にはプロジェクトの途中から参画し、いきなり担当をまかされるケースも少なくありません。
それまでにどのような議論がなされてきたのかも十分に理解できておらず、言葉の意味や話の内容もよくわからない中、必死に聞いて作成してはみたものの、上司からたっぷりと修正指摘を受けてまた書き直し。やっと完成したと思ったら、また次の会議がやってくる。
議事録の作成は確かに手間のかかる作業です。大切なことを聞き逃さないように会議中も気を抜けませんし、他にお願いされている仕事があっても会議が終わったらすぐにまとめ作業にとりかからないといけません。誰か代わってくれないだろうか、と思うこともあるでしょう。
そんな議事録作成ですが、取り組み方次第では、自身を誰よりもプロジェクトの状況を深く理解している代えがたい存在へと変えることもできますし、コンサルタントとしてのビジネスソフトスキルを鍛えるための恰好の訓練の場にもなります。
本記事では2回に分けて、議事録を作成する作業によって得られる効果と、新人コンサルタントが議事録を作成する際のテクニックについて解説します。
はじめてのプロジェクト ~筆者の経験~
筆者が初めて参画したプロジェクトの話を紹介します。
コンサルティングファームに入社後、すぐに連れていかれたのは某商社の会計系システムの導入プロジェクトでした。すでにプロジェクトは開始していて、途中からPMO(Project Management Office)と呼ばれるプロジェクトの管理や支援を担うチームのメンバーとして加えられました。その頃プロジェクトは、「要件定義」という、どのように業務をおこなうか、そのためにシステムにはどのような機能が必要かを決定する作業の最中で、毎日ユーザと議論をかさねているところでした。筆者は、その会議すべてに参加して議事録を作成することを命じられました。
当時、多くの企業が競うようにERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの導入に取り組んでいる時期でした。会計の知識はありましたが、ERPどころかITシステムというものについての知識も経験もまったく有しておらず、そのプロジェクトの目的も、各チームの作業の内容もよく理解できていない状態でした。当初の計画よりも大幅にスケジュールが遅延していたため、ユーザとの会議が一日に平均3~4件、朝から晩まで予定されており、その日の最後の会議が終わるのが深夜になることも度々でしたが、来る日も来る日も会議に出席し、議事録を作成し続けました。いま振り返ると信じられないような話です。
会議中に飛び交う言葉の意味がまったくわかりませんでした。そもそも出席者が使用している単語自体、それまで聞いたこともないので、はじめのうちは正しく聞き取ることもできませんでした。会議後にどうにか議事録を清書してはみたものの、自分で読んでもちんぷんかんぷんな内容です。上司に見せる前に誰かに聞きたくても、メンバーもみな時間に追われ丁寧に教えてくれる余裕などありません。当然、上司からは毎回膨大な“赤入れ”をもらいました。前の会議の議事録も完成しないうちに次の会議の議事録が積み重なっていき、終電あるいは深夜タクシーで帰宅する毎日でした。体も心も疲れ切り、「もうこの仕事を辞めよう」と何度も思ったものです。
ですが、どんなにつらくても議事録を書き上げないと仕事は片付きません。何とかしなければと思い筆者がおこなったことは、言葉や会話の意味がわかろうがわかるまいが、とにかく聞いて、聞いて、聞いて、そして聞いたことをそのままノートに書き留めることでした。それをあとで読み返し、意味が分からないながらも、会話の流れや雰囲気を思い出しながらあらすじを想定し、それらしく文章にまとめる。そして上司のレビューを受け、単語やあらすじを修正する。この作業をひたすら繰り返しました。
すると、繰り返していくうちに不思議と言葉の意味が理解できるようになり(もちろん調べられることは自分でも書籍等で調べました)、上司からの赤入れの量も日に日に減っていることに気が付きました。また、すべての会議に出席していたため、各チームおよびプロジェクト全体の進捗や課題の状況、課題間の関係性、発生原因などについて詳細に説明できるメンバーは筆者くらいで、次第にプロジェクトメンバーやクライアントが何かあれば質問してくるようになりました。あれほど「もうこの仕事を辞めよう」と思っていたのに、いつのまにかプロジェクトの中で欠かせないキーマンの一人になっていたのです。
このことは、経験の浅かった自分に「やり方次第でまだこの業界で戦えるかもしれない」という希望を与えてくれました。
実はハイレベルなスキルを必要とする議事録作成
議事録の作成は新人や経験の浅いコンサルタントに任される代表的な仕事ですが、実はコンサルタントとしての非常にハイレベルなビジネスソフトスキルを必要とします。
議事録は、その記録の仕方により「会話型」と「要約型」の2種類に分けられます。
- 「会話型」:会議中の会話の内容を、話の流れに沿って時系列に記録する形式
- 「要約型」:会議中の会話の内容を整理し、要点をとりまとめて記録する形式
官公庁の各種審議会や研究会などの公的な会議、会社の取締役会などの法的に開催が求められている会議では、会議の開始から終了までのすべてのできごとを明らかにするとともに、誰がどのような発言をしたのか、結論に至るまでの議論の経緯を議事録の利用者に誤解のないよう伝える必要があるため、「会話型」によって作成された議事録が多く見られます。
一方、コンサルタントが実務で作成する議事録は、圧倒的に「要約型」です。会議後数日たってから回覧される十数枚におよぶ議事録よりも、プロジェクトが必要とするのは、プロジェクトを少しでも前に進めるために役立つ会議内容の速報であり、そこで決まったTo Doリストであり、関係者全員を同じ目標に向かって行動させるための指針となるコミュニケーションツールです。
この要約型の議事録を効率的に作成するための秘訣は2つあります。
- 余分な情報を削ぎ落す
- わかりやすく書く
簡単なことではないかと思われるかもしれませんが、実際にこの作業をおこなうには、高いビジネスソフトスキルを必要とします。
①余分な情報を削ぎ落す
会議には台本がある訳ではありませんので、参加者が言いたいことは、会話の中でいろいろなタイミング、いろいろな表現で語られます。また、本論に関係のない「余談」も度々話題に上ることもあります。
そのような幻惑、雑音に惑わされることなく、結局言いたかったことは何だったのか、何が決まり、何が決まらなかったのか、誰が何をしなければならないのかといった、議事録として記録しておくべきことを整理し、不要な情報を徹底的に排除します。そして残った情報であらすじを整えます。
この情報の選別作業を、会議の最中に参加者と議論をしながら頭の中で進めることができると、議事録の作成も効率的ですし、もしあなたが会議のファシリテータであれば、ゴールに向かって議論をより一層円滑に進めることができるようにもなります。
②わかりやすく書く
議事録は、記録しておくべきことが明確になっていても、それを議事録の利用者に正しく伝えられなければ意味がありません。事実や発言者の意図がより正しく伝わるのであれば、実際に使用された言葉や言い回しを別の表現に言い換える、実際に議論された論点の順番を入れ替えてあらすじを整理するなどして、議事録の利用者に大事なことがより正しく伝わるように、表現方法を工夫します。
これらの作業をおこなうためには、コンサルタントとして習得することが不可欠の3つのコアスキルである、「聞く力」、「考える力」、「伝える力」を鍛えておかなければ容易に実行することはできません。
- 「聞く力」
問題を正しく理解する(=問題の構造を明らかにする)スキル - 「考える力」
真の問題を把握して、課題(解決すべきことは何か)を適切に設定し、最適な解決策を導き出すスキル - 「伝える力」
相手に解決策を理解・納得させ、行動を促すスキル
議事録は、まさに3つのコアスキルの総合力が試される作業といえます。
まとめ
本記事「議事録を制する者はプロジェクトを制す ~前編~」では、議事録を作成するためにはコンサルタントとしてのハイレベルなビジネスソフトスキルを必要とすること、コンサルタントが実務で利用する要約型議事録の作成の秘訣について説明しました。
後編では、そのような議事録作成に新人コンサルタントがどのように立ち向かっていけばよいか、具体的な作成の方法について説明します。